三河湾の黒真珠

前日に宿泊した焼津のホテルを出ると、外は滝の様な大雨だった。しかし何としても始発に乗るべく駅へ走り出したのだが、あっという間にでズブ濡れになった。掛川、豊橋、新安城、西尾と乗り継ぎ、バスで一色港まで着いた時はすでにフラついた足取りだったが、更に船に乗り込み20分ほどで目的地の佐久島にようやく辿り着いた。

佐久島は三河湾に浮かぶ人口300人弱の小島で、紀元前3000年頃には人が住み始めたことが分かっている。古墳が40基以上残されていることから豪族たちの隆盛が偲ばれる。
スケッチをすべく向かった佐久島西港には、板壁に塩害対策としてコールタールが塗られた黒い集落が軒を連ねている。「三河湾の黒真珠」と呼ばれる独特の集落だ。海に面した漁村集落だから自然との対峙と共存が不可欠だった。シックでお洒落だから黒を塗ったのではなく、それは必要に駆られてのことだった。だからこそ地域性を帯びた独特の風情が生まれたのだ。観光地化もされていないため、哀愁さえ感じる旅情豊かな場所だ。

佐久島
佐久島

同じ様な形、色、スケール感の建物が並ぶ様は、統一感のある風景で絵になるものだが、都会でも瓜二つの量産型の建築がどこまでも並ぶ景色に出会うことがある。しかしながら、それらが絵になる風景だとは誰も思いはしない。おそらく建築素材に刻まれていく時間の経過が違いすぎるのだろう。残念なことに現代建築の多くは時間に耐えうることができないし、効率性の代わりに持続性を手放してしまったと多くの建築家たちが考えている。

伝統的な集落を単に郷愁的な観点から見るだけでなく、今日的な視点で考えてみると現代建築や都市の問題点が浮かんでくるのかもしれない。ヨーロッパの都市風景を思い出すまでもなく、時間に耐え、刻み込まれた建築は我々の目や心を楽しませてくれるものだし、そこで暮らす人々の生活の記憶を垣間見せてくれる。

佐久島西港 水彩紙 透明水彩
佐久島西港 水彩紙 透明水彩
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