階上町の小船戸食堂

古今東西の名作と呼ばれる建築は、その場所にしかない特性を活かしたものが多いように思います。例えば、「落水荘」や「昌徳宮秘苑」あるいは「三徳山投入堂」「ラ・トゥーレット修道院」などなど。もちろん京都の「清水の舞台」も土地の個性に従って作られています。建築はその場所に従うのです。

斜面の土地であれば、その特性を上手くいかして設計をしたいと考えるのが建築家ですが、現実は土地の開発者によって平らに造成されてしまいます。ブルドーザーで樹木もまとめてなぎ倒すので、時間を掛けて作られた生態系も破壊されてしまいます。さらには「自然破壊」をして作った平らな土地に「自然」と名の付いた施設を作るのですから、良いことではありません。

八戸市の階上町に「小船戸」と名付けられた海鮮料理処があります。岬から突き出た場所に建てられた素朴な木造建築です。しかし足元がすぐに海なので大変な所に建てたものだと驚かされます。建築が海に向かって船出をするかのように見えてきます。小船戸は東日本大震災の際も奇跡的に建物の被災を免れ、震災の半年後には営業が再開されました。

階上町は青森県で最も余震の多かった町ですが、幸いにも人的被害が皆無でした。経験的にどの方向に逃げれば助かるということを知っていたと聞いています。思わずこの事で考えてしまうのは、原発事故の事です。原発の開発者や運営をしている電力会社の人々は頭が良く、災害時の備えも十分だと考えて稼働していましたが、それは机上の空論でした。頭ではなく、身体感覚で危険を察知する能力に欠けていたと思うのです。それを人間の野生力の減退といっては大げさでしょうか。

身近な自然を壊して人工的なものに置き換えてしまう今日、我々はますます身体感覚を失っています。人間の危機回避能力の衰えは、建築や街をいくら防災的に強固にしても補えるものではないのです。大海原に寄り添う小船戸食堂は、これからの建築のあり方にヒントを与えているのかも知れません。

小船戸食堂 水彩紙 透明水彩
小船戸食堂 水彩紙 透明水彩

追記:磯ラーメンとても美味しゅう御座いました。

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