空き家と卒業制作

建築学科の卒業制作は、学生生活4年間の集大成です。学生たちはあの手この手で優秀な作品を作るべく頑張るのですが、当時の学生たちの作品には少々違和感を持っていました。ポストモダニズムの残り香のような奇妙な建築を設計し、磯崎新風の難解なコンセプトを提示する同級生が多かった。彼らは人と違う事をやらなければいけないと強く思い過ぎてるんじゃないのか?と思い、僕はその世界に付いていけませんでした。人と違う事をやろうという価値観を共有している時点で、同じ土俵に上がっている事に気が付いていないんじゃないか?と思っていたのです。生意気な学生でした。

当時の東京都北区赤羽、荒川土手の周囲には使われなくなった倉庫や工場がたくさんありました。そこは野球少年たちの歓声が聞こえ、夕方になると工場町が赤く染まる昭和的な雰囲気の風景を残す場所でした。僕は卒業制作の敷地としてその場所を選びました。自宅から自転車で行けるし、子供の頃から馴染んでいた原風景でもあったからです。

では空き家となった倉庫や工場をどうしたのか?外見だけは残し、中身だけを改修しようと思ったのです。倉庫を地域図書館に改修したり、工場を将棋や囲碁ができる集会場に転用する。あるいは喫茶店やギャラリーとして町ごと再生させてしまおうと思ったのです。今時の言葉で言えばリノベーション、いや町ごとですからエリアリノベーションと言えます。変わった建物を新しくを作らない。今あるものを活かそうよ!という提案でした。

苦労した結果、30センチ角の絵本にして大学に提出しました。おそらく学内で最も地味、東京中の大学の中でも最も地味な卒業制作であったかと思います。ところが、まさかの高評価で賞をいただいた上、雑誌「近代建築」に掲載していただく事ができました。ここ10年くらいでリノベーションという言葉が定着しましたが、20年前の卒業制作で考えていた事が間違いではなかったのかな、と今になって思います。

ところでリノベーションは古いものを再生することでそれまでとは違う価値観を生み出すことと解釈されています。これが正しければ現状のお色直し的な意味合いのリフォームとはまったく違う概念なのです。JIA会館での授賞式でだれかに「君は後ろ向きに前に進んでいるね」と言われました。当時はこの言葉が良く分かりませんでしたが、今頃になってなんとなく理解ができるような気がします。

社会問題化する空き家
社会問題化する空き家

空き家が今、社会問題になっています。古いので崩れるんじゃないか?不審者が住み着くんじゃないか?という訳です。それもあるのでしょうが、空き家を利用しないで次々と新築することにも問題があります。空き家総数820万戸。しかし今、建築の世界では空き家問題を解消するために様々な取り組みが行われています。築50年の老朽化アパートをシェアオフィスやギャラリーに転用したり、古民家を喫茶店に改修あるいはビアホールやパン屋にしたりと、楽しい建築活動がたくさん増えてきました。さらには賃貸物件を自ら耐震改修して又貸しする人まで現れました。誰も見向きもしなかった空き家の活用で地域の経済活動が活発になるし、なおかつ空き家という社会問題が解消されるのだから素晴らしい。新築する時代から古い建築を継承する時代への方向転換は、確実に進んでいるし、この先の未来さらに発展していくことでしょう。そもそも問題噴出のこの社会そのものが、リノベーションされる時代が近づいているのだろうか、などと谷中ビアホールで考えたりします。

古民家をリノベーションした「上野桜木あたり」
古民家を改修した「上野桜木あたり」
昭和13年の珈琲館を復活させた「カヤバ珈琲」
昭和13年の珈琲館を復活させた「カヤバ珈琲」
萩荘が「HAGISO」に再生された。
萩荘が「HAGISO」に再生された。
ホテル「MARUKOSHISO」
ホテル「MARUKOSHISO」
銭湯がギャラリー「SCAI THE BATHHOUSE」に
銭湯がギャラリー「SCAI THE BATHHOUSE」に
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