白い迷宮 チステルニーノ

今から5年前、南イタリアの港町バーリからローカル列車に揺られてプーリア州のチステルニーノという小さなコムーネに行きました。誰もいない駅を降りてこの地方特有の民家「トゥルッリ」を見ながら、丘の上の街を目指すとやがて城壁に囲まれた人口3000人の小さな旧市街が姿を現します。

トゥルッリと呼ばれる民家
トゥルッリと呼ばれる民家

ポルタ・グランデと呼ばれる大きな門をくぐり旧市街に足を踏み入れた瞬間の感動は忘れることはありません。細い路地で繋がれた白い集落が連なり、まるで迷宮に潜り込んだかのような錯覚を受けます。蟻の巣のような細々とした路地に4階建てくらいの建物が並びそれぞれがバットレスで繋がれ、一つの大きな集合住宅のようでもあります。始めは平屋建ての家々が建っていたのでしょうが、人口の増加のためなのか3階建て、4階建てと後に増築されていったのだと思われます。石積みの構造上、内部に階段を作れなかったのでしょうか。あちこちに散見される外部階段が街並みのアクセントになるとともに、上階のテラスや下階の玄関庇になっています。

複雑に連なる路地
複雑に連なる路地
トンネルの向こうにも白い集落が続く
トンネルの向こうにも白い集落が続く

細い路地を進むと僅かに膨らんだ空間があり、そこでは近隣のおばさんたちが立ち話をしています。袋小路上の空間もたくさんあり、住人のコミュニティーの場として使われているようです。近代の都市計画によって、きっちりと作られた街ではありませんが、自然発生的なヒューマンスケールと煩雑さがなんとも言えず心地よい。チステルニーノは下町的な温かさを残す、世界の均質化と戦うスローシティなのです。

袋小路がコミュニティーを誘発する
袋小路がコミュニティーを誘発する

ヨーロッパは新市街より旧市街の方が楽しい。そう思う日本人がほとんどでしょう。にもかかわらず日本においては、旧市街的情緒が次々と壊されていきます。例えば京成立石駅前の鄙びた横丁で一杯やるために集まってくる人々がたくさんいます。煩雑とした心地よさと昔ながらの下町的趣きがあるから人を導くのだと思います。人気のある街ですが、立石もどこにでもある小綺麗な街に再開発されてしまいます。近代的な都市計画ではなく、綿々と受け継がれてきた人々の身の丈にあったスケール感のある街は、それだけで競争力や個性を持っているにもかかわらず。もし、それらを壊し均質的で無機質な近代都市に変えてしまうのであれば、もはやそれは創造ではなく破壊と言えるのかもしれません。新しいものを創るのか、古いものを壊すのか、選択肢は2つでは無いと思うのですが。

街の中心エマヌエーレ広場
街の中心エマヌエーレ広場
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